大動脈解離シンポジウム 大動脈解離シンポジウム

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=開催報告=
第3回大動脈解離シンポジウム

「第3回大動脈解離シンポジウム」が、2015年3月7日(土)横浜ローズホテルにて、第3回大会長 安達 秀雄 先生(自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科 教授)のもと開催されました。 こちらでは、大会長ご挨拶、開催案内、当日の会場風景写真、演題抄録、プログラムを現在掲載中です。ご参照ください。

大会長挨拶  開催案内パンフレット  会場風景  演題抄録  プログラム(タイムスケジュール含)

大会長

代表幹事の井元清隆教授(横浜市立大学附属市民総合医療センター)が第1回の大動脈解離シンポジウムを企画・開催し、昨年の第2回シンポジウムは上田敏彦教授(東海大学医学部外科学系心臓血管外科学)が会長となって開催されました。いずれも盛会で、参加者は多くのことを学び、大変評判が良いシンポジウムでした。大動脈解離は突然に発症して、生命の危機に瀕する病態であり、日常診療では重要な疾患であるにもかかわらず、わかっていないことが多い疾患です。時間を取って自由に議論できるこのシンポジウムは意義が大きく、第3回も開催しようと話しがまとまり、今回は私が会長として企画することになりました。多くの方々にご参加いただき、実りある会になることを期待しています。


第2回プログラム


第3回会場風景1

第3回会場風景2

第3回会場風景3

第3回会場風景4


■大動脈解離の病因はどう考えられているか?

日本医科大学付属病院・心臓血管集中治療科
圷 宏一 先生

大動脈解離はその発症の背景として、病理では嚢状中膜壊死、臨床では高血圧などが指摘されてきたが、十分明らかにされているとは言い難い。本講演では大動脈解離の発症要因を病理、後天性、先天性の3つの観点から整理した。
病理:以前より指摘されてきた嚢状中膜壊死はMarfan症候群では高率に認められるものの、一般の解離症例の2割程度に認められるのみで、弾性板架橋の減少こそが大動脈解離の背景病理ではないかとする報告がある。 後天性要因:高血圧(約50−70%)が重要な背景因子であることは明らかであるが、近年は睡眠時無呼吸(約15%)、また大動脈瘤(約10%)など指摘されるようになった。 先天性要因: Marfan症候群、血管型Ehlers-Danlos症候群以外に、次々に新しい遺伝子異常が報告され、TGFBR1 、TGFBR2、 SMAD3、ACTA2遺伝子異常などが若年性大動脈疾患の原因遺伝子として明らかとなり、先天性結合織障害全体では解離の原因の10%程度を占めるのではないかと推定される。


■大動脈解離診断のトピックス:CT診断

日本医科大学 放射線医学
林 宏光 先生

ULPとIBP(Intramural blood pools)
偽腔閉塞型大動脈解離における血栓化偽腔の部分的欠損像であるULPを、便宜的に内膜裂孔相当部に該当する狭義のULPと大動脈分枝に連続する偽腔内造影域のIBPに分類することで、両者の予後の違いを推測できる可能性がある.しかし、両者の区別は必ずしも容易でないこともあり、経過観察が重要であることに変わりない.
大動脈解離発症前CTからみた大動脈壁の違い
大動脈解離発症前CTにおいて、解離発症後のentry/ULPとなる病変部の大動脈壁は他部位に比較して有意に肥厚しており、またULP(偽腔閉塞)型は偽腔開存型に比較して、有意に発症前CTの壁は肥厚していた.
大動脈解離の発症背景として局所的な大動脈壁の変化が関係している可能性があり、特にULP(偽腔閉塞)型においてその関連が疑われる.


■エコー診断のトピックス

高知大学医学部 外科学(外科二)
渡橋 和政 先生

エコー診断には、ベッドサイドで形態・灌流情報がリアルタイムに得られるメリットとともに、それが術者依存というデメリットがある。解離の予後を決定するのは、破裂、灌流障害、大動脈弁逆流という解離本来の合併症とともに初期診断の遅れである。灌流障害の評価の大部分にエコーが有用である。脳灌流は眼球ドプラと弓部分枝のTEE評価、内臓虚血はTEEによるaortic type, branch typeの評価、心筋虚血は冠動脈血流と壁運動障害で評価する。偽腔送血は、上記手法を用いて灌流状況が変化しうるタイミングでエコー診断する。初療での診断にポケットエコーが今後有用となるだろう。機能は落ちるが、上行〜腹部大動脈とその分枝の血流欠損やフラップ、臓器実質内の血流で早期診断を可能とする。エコーの『術者依存』は、外科手技と同様、修練によるメリットの享受を示している。


■大動脈解離:臓器虚血への対応

横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター
内田 敬二 先生

急性大動脈解離に伴う臓器血流障害のなかでも、冠動脈虚血、腹部臓器虚血は重篤な転帰となることが多くその対策の確立が重要である。われわれは左冠動脈虚血に対してPCIを先行、LMTにundersizeのstentを留置し、手術時にstentを摘出、SVGでLADに予防的バイパスを作成している。この治療方針により5例中4例を救命した。失った1例は初期のstent血栓閉塞(SAT)であった。腹部臓器虚血にたいしては緊急開腹、SMA分枝からアトムチューブを挿入し送血と圧測定をおこなうSMA interventionを先行する治療方針をとってきた。虚血腸管は3時間で壊死に陥るとされており、TEVARによるentry閉鎖では間に合わない可能性がある。SMA interventionにより救命率は向上したが、腹腔動脈領域の虚血により膵炎を発症した症例を経験した。腹腔動脈領域の虚血の診断と対策が今後の課題である。


■大動脈解離の内科的治療

公益財団法人 日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院 循環器内科
桃原 哲也 先生

大動脈解離(以下、DA)の内科的治療の目的は、解離部分の拡大と再解離を予防し、破裂の防止にあります。治療としては、安静、除痛の上、降圧治療を基本にしています。当院の基本方針は、収縮期血圧が100-110mmHg程度、脈拍が100/分以下を目標として、薬物治療を行っています。特に、脈拍のコントロールは重要と考えており、β阻害薬の持続静注でコントロールしています。可能であれば、80-90/分程度まで脈拍を低下させることを目標にしています。StanfordT型に関しては、外科的修復術を原則にしています。V型に関しては、切迫破裂や破裂の危険があると判断された場合(径が6cm以上など)と末梢領域(内蔵臓器も含めて)に虚血が現在進行形である場合に外科的修復術を行うもしくは検討する方針です。さらに、全身性炎症反応症候群(SIRS)を念頭に置き、血中酸素分圧の低下が明らかな場合は、エラスターゼ阻害薬の使用や挿管管理を早めに行うようにしています。
以上のような治療方針で、2014年の1年間に133例のDAをCCUに収容しまし、91例が緊急手術となりました。全体の院内死亡率は、5.2%でした。


■大動脈解離治療の遠隔期成績

自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科
木村 直行 先生

本邦の急性A型解離治療成績は向上しており、救命例が増加する一方、慢性期再(追加)手術症例も増加している。当センターの2013年3月までの急性A型解離手術数は534例で、造影CT実施後退院した451例の解析では、エントリー切除率75%(338/451)、部分開存も含めた偽腔開存率は62%(280/451)であった。10年生存率・10年大動脈イベント(再解離・遠位再手術・大動脈関連死・突然死)回避率は72%・75%で、危険因子は遠隔死:年齢・男性・偽腔開存、大動脈イベント:マルファン症候群・遠位大動脈径45mm・偽腔開存・エントリー非切除であった。近位側は、93% の症例で初回手術時、自己弁温存交連吊り上げ法で対処し、10年再手術回避率は93%であった。近位再手術17例(死亡1例)、遠位再手術43例(死亡なし)といずれも再手術成績は良好であった。遠位側偽腔開存例では注意深い経過観察が重要だが、破裂・再解離前に再手術を実施することで予後の改善が期待できる。


■大動脈解離遠隔期の外科治療

川崎幸病院川崎大動脈センター
山本 晋 先生

大動脈解離遠隔期の外科治療は、主に1)A型急性大動脈解離に対してHemiarch repair(HAR) または大動脈弓部置換術(TAR)を行った後の下行大動脈瘤あるいは胸腹部大動脈瘤に対する手術、2)B型慢性大動脈解離の下行大動脈瘤あるいは胸腹部大動脈瘤に対する手術となる。川崎幸病院川崎大動脈センターにおいて、2008年より2014年までに行った胸部大動脈手術2003例のうち、左開胸による下行大動脈人工血管置換術あるいは胸腹部大動脈人工血管置換術は1101例であり、このうちの401例が慢性大動脈解離に対する手術であった。401例中A型急性解離術後症例は110例(HAR69例、TAR28例)、B型慢性大動脈解離症例は291例であり、待機手術は371例、緊急手術は30例であった。術後1年生存率は88.7%、3年生存率は86.9%であり、re-intervention Free rateは98.0%であった。


■急性大動脈解離と突然死:その後の知見

榊原記念病院病理・東京都監察医
村井 達哉 先生

昨年のシンポジウムでは、東京都区部の異状死に於ける大動脈解離例の概況について述べたが、今回は本症の剖検にあたり演者が長年注目してきたintimal tearにつき、病理学的な立場から検討した。非粥状硬化部にみられる典型的なtearでは、中膜外層に存在する解離腔よりも内膜寄りに顕微鏡的なmicrodissection(しばしば複数)が大多数の症例で観察され、tearが内膜から段階的に形成されて中膜外層に達し、同部から肉眼的解離を生じたことを示唆する所見ではないかと考えられた。演者がこれまで経験した200例以上の急性大動脈解離剖検例では、1例を除いてintimal tearあるいはpenetrating aortic ulcer(PAU)からのentryが確認されており、Vasa vasorumからの出血による所謂intra-mural hematoma(IMH)は、仮に存在するとしても極めて稀な病態ではないかと思われる。


■大動脈解離診断の困難性と突然死

自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科
安達 秀雄 先生

大動脈解離の初期診断は意外に難しく、「激しい胸痛、背部痛」以外の症状で発症することがまれではない。大動脈解離による大動脈分枝の血流障害は、大動脈から分枝するすべての動脈に発生する可能性がある。
すなわち、@冠状動脈の血流障害では狭心症や心筋梗塞、A腕頭動脈や頸動脈の障害では脳梗塞や意識障害、B鎖骨下動脈の障害では上肢の脈拍減弱や冷感、痛み、壊死、C肋間動脈の障害では脊髄麻痺(下半身麻痺)、D腹腔動脈の障害では腹痛、虚血性胃炎、肝障害、胆嚢壊死、E上腸間膜動脈の障害では腹痛、虚血性腸炎、腸管壊死、F腎動脈の障害では腎梗塞、急性腎不全、G腸骨動脈や大腿動脈の障害では下肢の脈拍減弱、虚血、冷感、壊死等が発生する可能性がある。これらの症状では、大動脈解離が原因になっていることがある。
こうした多彩な症状に加えて、症状が寛解することがあり、救急外来では症状を訴えないことがある。一時的な血圧低下による健忘症状が関与していることもある。発症時の状況を家の人や付き添いの人によく聞くことが重要である。 大動脈解離の症状は一律ではないこと、しかも症状が一時的に寛解するという特徴があり、大動脈解離診断の注意点として強調したい。

12:00  受付開始

12:30〜12:55  幹事会 (25分)

13:00  開会のご挨拶 (5分)

13:05  【1】 大動脈解離の成因と疫学

@ 「大動脈解離の病因はどう考えられているか?」 10分発表(13:05〜13:15)
  圷 宏一 先生 日本医科大学付属病院 心臓血管集中治療科

10分討論(13:15〜13:25)

A 「急性大動脈解離スーパーネットワーク:現状と課題」 10分発表(13:25〜13:35)
  吉野 秀朗 先生 杏林大学医学部付属病院 循環器内科

10分討論(13:35〜13:45)

司会 渡邉 善則 先生 東邦大学医学部 外科学講座 心臓血管外科学分野

13:45  【2】 大動脈解離診断のトピックス

@ 「CT診断のトピックス」 10分発表(13:45〜13:55)
  林 宏光 先生 日本医科大学 放射線医学

10分討論(13:55〜14:05)

A 「エコー診断のトピックス」 10分発表(14:05〜14:15)
  渡橋(おりはし) 和政 先生 高知大学医学部 外科学

10分討論(14:15〜14:25)

A 「ガイドラインの課題」 10分発表(14:25〜14:35)
  本 眞一 先生 三井記念病院

10分討論(14:35〜14:45)

司会 荻野 均 先生 東京医科大学 心臓血管外科

14:45〜15:00 コーヒーブレイク (15分)

15:00  【3】 大動脈解離:臓器虚血への対応

@ 「大動脈解離:臓器虚血への対応」 10分発表(15:00〜15:10)
  内田 敬二 先生 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター

10分討論(15:10〜15:20)

A 「大動脈解離:臓器虚血への対応」 11分発表(15:20〜15:30)
  築部 卓郎 先生 神戸赤十字病院 心臓血管外科

10分討論(15:30〜15:40)

司会 安達 秀雄 先生 自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

15:40  【4】 大動脈解離の遠隔期成績

@ 「大動脈解離の内科的治療」 10分発表(15:40〜15:50)
  桃原 哲也 先生 榊原記念病院 循環器内科

10分討論(15:50〜16:00)

A 「大動脈解離治療の遠隔期成績」 10分発表(16:00〜16:10)
  木村 直行 先生 自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

10分討論(16:10〜16:20)

司会 上田 敏彦 先生 東海大学医学部 外科学系 心臓血管外科学

16:20  【5】 遠隔期の外科治療及びステントグラフト治療

@ 「大動脈解離遠隔期の外科治療」 10分発表(16:20〜16:30)
  山本 晋 先生 川崎幸病院大動脈センター

10分討論(16:30〜16:40)

A 「解離病変に対するステントグラフト治療の現状と課題」 10分発表(16:40〜16:50)
  志水 秀行 先生 慶応義塾大学病院 心臓血管外科

10分討論(16:50〜17:00)

司会 大北 裕 先生 神戸大学大学院 医学研究科 心臓血管外科学

17:00  【6】 大動脈解離と突然死

@ 「急性大動脈解離と突然死:その後の知見」 10分発表(17:00〜17:10)
  村井 達哉 先生 榊原記念病院病理

10分討論(17:10〜17:20)

A 「大動脈解離診断の困難性と突然死」 10分発表(17:20〜17:30)
  安達 秀雄 先生 自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

10分討論(17:30〜17:40)

司会 本 眞一 先生 三井記念病院

17:40  閉会のご挨拶 (5分)

情報交換会(18:00〜19:30)



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