=開催報告=
第4回大動脈解離シンポジウム
「第4回大動脈解離シンポジウム」が、2016年3月5日(土)横浜ローズホテルにて、第4回大会長 荻野 均 先生(東京医科大学 心臓血管外科 主任教授)のもと開催されました。こちらでは、大会長ご挨拶、開催案内パンフレット、会場風景、演題抄録(一部;9演題)、プログラムを現在掲載中です。
大会長挨拶 開催案内パンフレット 会場風景 演題抄録 プログラム(タイムスケジュール含)【本会総括として】
本シンポジウムも第4回となり、少し方向性を変え、B型解離に対するステントグラフト内挿術(TEVAR)およびA型解離に対するオープンステント法など、デバイス治療にやや重きを置き、かつ従来の講演に加えて一般演題の発表の場を設け、若手の先生方の積極的な参加を狙ったシンポジウムを企画しました。
先ず、椎谷先生と志水先生による急性・慢性B型解離の外科治療に関する、綿密な戦略に基づく良好な成績に関する講演があり、次にこれに対抗する形で、松田先生、西巻先生、加藤先生による急性・慢性B型解離に対するTEVAR治療に関する最新の適応、実際の手技に関する講演があり、序盤から適応を中心に議論が白熱しました。次に、解離の成因と疫学のところでは、圷先生による東京都CCUネットワークを母体とする急性大動脈解離ネットワーク、今井先生による遺伝性結合織疾患とマルファン外来に関する話があり、外科中心の診療体系に内科の先生方の新しい視点が持ち込まれた大変参考になるものでした。小休憩を挟んで、大島先生の「ドクターカーシステム」、北村先生の「エントリー部位の違いによるB型解離の予後の差」、輕部先生の「B型解離破裂の手術成績」などの発表があり、講演に引けを取らない大変示唆に富むものでした。次に、画像診断の視点から、西上先生の経胸壁エコーによる解離の診断、吉岡先生の新しい320例CTによる大動脈疾患関連の診断の話など、その道のエキスパートによる興味深い話題提供がありました。そして最後に手術手技に関するknack & pitfallとして、内田先生のA・B型解離に対するオープンステント法、荻野のA型解離における基部再建の講演があり、懇親会でのおいしい「ちゅうか・い・りょうり」の前に、解離の診療に関する盛り沢山な内容でお腹が一杯になってしまうほど、有益なシンポジウムでした。
次回以降は、若手のより積極的な参加を期待する次第です。最後に、今年で御退官されます井元教授をはじめ、座長、コメンテーターとして会を盛り上げていただいた世話人の先生方のご尽力にあらためて敬意と謝意を表します。
【本会開催に先立って】
本シンポジウムも第4回を迎えます。これまで同様に、半日で「大動脈解離の診断・治療のup-to-date」を共有する形で会を進めたいと思います。
ただ今回は少し様相を換え、最新の外科治療、特に進歩の著しい急性大動脈解離に対する「オープンステント法」を含めたステントグラフト治療に少し重点をおいた内容にしたいと思っています。
また、より多くの先生方に参加していただくために数題の一般演題を盛り込む予定です。さらに情報交換会においても、美味しい美味しい横浜中華街の料理に舌鼓を打ちながら、「Meet the expert surgeons」と題し、普段の診療における疑問点などザックバランな質疑応答のコーナーを設ける予定です。
若い先生からベテランの先生まで多くの先生方の参加の下、これまで以上にホットなシンポジウムにしたいと思っています。皆さん、奮ってご参加ください。
慶応義塾大学病院 心臓血管外科
志水 秀行 先生
慢性B型解離に対する胸腹部置換58例、全胸部下行置換43例、部分下行置換36例、上行弓部下行の広範囲置換12例の検討を行った。原則として、軽度低体温、部分体外循環下にSequential clampで手術を施行した。下行置換の59例(74.7%)に末梢側double barrel(DB)吻合を行った。
早期adverse event(死亡+合併症)発生率は下行部分置換2.8%、全下行置換7.0%、胸腹部置12.1%、広範囲置換25%であった。下行置換後、遠隔期に末梢大動脈の手術を要した症例は、1例を除きDB例であった。耐術例における大動脈関連イベント回避率は、下行置換(DB吻合)に比べて胸腹部置換例が有意に良好であった(p=0.04)。ただし、胸腹部置換の手術死亡率は、下行置換の既往の有無によって差を認めなかった。
慢性B型解離の治療において、早期成績が良好な下行置換は有用な治療選択肢である。ただし、末梢側をDB吻合で行った場合には再手術を念頭にしたフォローアップが重要で、必要に応じ積極的に胸腹部置換を行うべきである。若年者やリスクの低い症例では、初回手術で胸腹部置換を行うことが良好な遠隔成績をもたらすと考えられる。
姫路循環器病センター 心臓血管外科
松田 均 先生
急性B型大動脈解離の治療へのTEVARの応用を考える場合、従来の鎮痛・降圧療法による内科的治療だけではなくどこまでTEVARで積極的に治療するかどうかということがまず想起される。”complicated”の場合にTEVARを即座に行うことはすでに広く受け入れられているが、”uncomplicated”の場合、将来の拡大予防のためのTEVARは、偽腔が開存し、大動脈径が40mm以上である場合に、発症後2週間〜6ヵ月の亜急性期に行うことが、安全性や二次的治療を避けるために適しているのではないかと考えている。また、左鎖骨下動脈直後にエントリーが存在し、弓部と胸腹部の双方の人工血管置換術が必要となるような場合でも、エントリー閉鎖をしておけば、より少ない範囲の人工血管置換術で済むことも考えられる。個々の患者における予後を推定し、根治性と侵襲度を勘案した最も適した治療を選択できるようにTEVARと人工血管置換術の双方に習熟する必要がある。
森之宮病院 心臓血管外科
加藤 雅明 先生
ステントグラフトの開発・普及に伴い、B型大動脈解離の治療にパラダイムシフトが起きた。
従来、緊急外科治療の対象とされてきた合併症のある(破裂・切迫破裂・腹部下半身の灌流障害)急性B型大動脈解離に対しては、ステントグラフトによるEntry閉鎖が、より有効であるというエビデンスが多く報告され、外科治療に代わりEmergent TEVARが標準治療となっている。
合併症のないB型解離は従来偽腔が拡大するまで、保存治療(降圧治療)が標準治療であったが、慢性期の偽腔拡大予測症例を対象に、Preemptive TEVARが提唱され、偽腔の拡大予防と生命予後に寄与するというエビデンスが報告されるに至り、これも徐々に標準化しつつある。
反対に偽腔が瘤化してしまった慢性B型解離性大動脈瘤は、Entry閉鎖のみでは偽腔の縮小が得られない症例も多く、これらの症例に対しては、Re-entryを含めた偽腔への全てのChannel 閉鎖が必要となり(Total TEVAR)、上記2つの治療適応、治療方法(=ステントグラフトによるPrimary tearの閉鎖)に比し、かなり複雑となる。
日本医科大学付属病院 心臓血管集中治療科
圷 宏一 先生
大動脈スーパーネットワークとは、東京都を5つの地域に分割して、各々の地域に24時間患者を受け入れ可能な重点病院とそれに次ぐ支援病院を予め決めておき、そこに東京消防庁から優先的に患者搬送の依頼をすることで、患者搬送時間の短縮をはかるシステムである。初年度は有意な搬送時間の短縮と死亡率の低下は得られなかった。ネットワークのデータ解析から多くの新知見が得られている。そのうちのいくつかを提示した。
(1)救命センターに搬送された患者を統計にとりこんだことにより、急性大動脈解離の発生は以前考えられていた3-5人/10万人/年よりもかなり多い10人/ 10万人/年であることがわかった。(2)B型解離は開存型と血栓閉塞型の発症直前の状況は酷似しており、両型は同様に発症しているかもしれない。(3)救急隊接触時の血圧と、来院時の血圧の比較では、接触時の血圧は来院時よりも高い場合も低い場合もあり、一定の傾向はなく、また予後との関連はなかった。
川崎幸病院 心臓血管外科
大島 晋 先生
背景;急性大動脈解離Stanford Type Aは発症からの時間経過とともに死亡率の上昇を認める。治療開始をより早くするために当センターではドクターカーシステムを2012年から採用した。当センターのドクターカーシステムでは医師が直接紹介病院に出向き、初期治療を開始、同時に待機している医師が手術準備を進める。それにより病院到着から手術室入室までの時間の短縮を図った。
方法;2012年3月から2015年4月までの急性大動脈解離Stanford Type A 264例を対象とし、ドクターカーで搬送された160例とそうでない104例を比較検討した。
結果;病院到着から手術室入室までの時間は中央値で140分と101分、手術死亡でも9.6%と4.3%とどちらも有意にドクターカー搬送群で改善を認めた。
考察;当センターで導入したドクターカーシステムにより治療成績は改善していると考えられる。
北里大学病院 心臓血管外科
【背景】B型解離の拡大は緩徐であり、TEVAR後10年以上経過してから開胸手術を要する症例もあり、現時点で合併症のない急性B型解離に対するTEVARの有効性および遠隔成績は明らかでない。 済生会熊本病院 循環器内科
【背景】大動脈解離(AD)の典型的症状は強い胸背部痛とされているが、胸部違和感、意識消失(心タンポナーデ)、臓器虚血症状(急性冠症候群や脳梗塞等)などの非典型的な症状が少なくない。心エコー時に大動脈も併せて観察する習慣により、見落としが減らせる。 岩手医科大学 循環器放射線科
マルチスライスCTの特徴は「速く」、「広く」そして「細かく」の3点である。今回、その中で「細かく」をさらに発展させた「超高精細CT」が開発され、それを大動脈解離に対して使用する機会を得た。 あかね会土谷総合病院 心臓血管外科 急性大動脈解離に対するオープンステントは、下行大動脈以下の真腔血流の確実な確保central repairにより、腹部以下のmalperfusionを予防できる。また術後のaortic remodelingは良好で、遠隔期の再手術を回避できる。急性解離のステントグラフト径は、術前のCTで計測し、大動脈外径の90%径を選択することで、術後の良好なaortic remodelingが期待できる。またステントグラフト長さは、術中の経食道エコーが有効で、解離の症例では大動脈弁位レベルから約2〜3cm中枢部の第6胸椎レベルに末梢端を合わせて留置している。また非ステント部は極力短めにすることで、ステントグラフトのkinkingが防止できる。 [司会]安達 秀雄 先生 自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科 @「急性・慢性B型解離の外科治療:どのようにしてどこまで換えるか?」 12分発表(13:05〜13:17) =8分討論(13:17〜13:25) A「急性・慢性B型解離の外科治療:どのようにしてどこまで換えるか?」 12分発表(13:25〜13:37) =8分討論(13:37〜13:45) [司会]井元 清隆 先生 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター @「急性B型大動脈解離への応用:現状」 12分発表(13:45〜13:57) =8分討論(13:57〜14:05) A「慢性解離性大動脈瘤に対する血管内治療」 12分発表(14:05〜14:17) =8分討論(14:17〜14:25) B「TEVARで大動脈解離がどこまで治せるか:現状と未来」 12分発表(14:25〜14:37) =8分討論(14:37〜14:45) [司会]本 眞一 先生 三井記念病院 @「急性大動脈解離スーパーネットワークにおける最近の知見」 12分発表(14:45〜14:57) =8分討論(14:57〜15:05) A「遺伝性結合織疾患とマルファン外来の活動」 12分発表(15:05〜15:17) =8分討論(15:17〜15:25) [司会]渡邉 善則 先生 東邦大学医療センター大森病院 心臓血管外科 @「Improved operative results of acute type A dissection with ”Doctor Car System”」 =5分討論(15:45〜15:50) A「Impact of the entry site on late outcome in acute Stanford type B aortic dissection」 =5分討論(15:55〜16:00) B「急性B型大動脈解離破裂に対する手術治療」 5分発表(16:00〜16:05) =5分討論(16:05〜16:10) [司会]林 宏光 先生 日本医科大学付属病院 放射線医学 @「エコーで大動脈病変を診る」 12分発表(16:10〜16:22) =8分討論(16:22〜16:30) A「CTを駆使した大動脈病変診断」 12分発表(16:30〜16:42) =8分討論(16:42〜16:50) [司会]上田 敏彦 先生 東海大学医学部 外科学系 心臓血管外科学 @「A/B型解離に対するFETを用いた弓部全置換術: knack and pitfall」 12分発表(16:50〜17:02) =8分討論(17:02〜17:10) A「急性・慢性大動脈解離に対する基部置換: AVSの適応とknack and pitfall」 12分発表(17:10〜17:22) =8分討論(17:22〜17:30) 17:35〜19:30 情報交換会 “Meet the expert surgeons”
北村 律 先生
【目的】エントリーの部位が急性B型解離の長期予後に影響するか検討した。
【患者と方法】1998年から2013年の間に当院で治療された急性B型解離224例を後視方的に検討した。
【結果】エントリーが遠位弓部大弯に存在した症例が29.9%、小弯が12.1%、下行以遠が58.0%。30日死亡率は1.8%で、7.6%に発症後0−40日にMalperfusionを合併した。死亡症例は4例とも大弯症例であった。最長16年の観察期間中に上行大動脈に解離が進展した症例7例中6例が大弯エントリーであった。エントリー部位によって生存率に差は認めなかった。大弯エントリー症例は開胸手術、大動脈インターベンション、大動脈イベントの率が有意に高かった。
【結語】急性B型解離において、大弯のエントリーは遠隔期の大動脈イベントのリスクファクターであった。今後急性B型解離に対するTEVARの適応を検討する際、エントリーの部位も考慮に入れる必要性が示唆された。
西上 和宏 先生
【4Sアプローチ】1) Superior parasternal view, 2) Small scale view, 3) Subxiphoid-abdominal view, 4) Supra-sternal viewは心エコー時に大動脈も併せて診ることができる。
【ADを疑う所見】1) 心膜液: A型ADの19%に出現すると報告されている。2) フラップor 大動脈壁肥厚: 偽腔開存型ではフラップがみられ、偽腔閉塞型では三日月状の大動脈壁肥厚が観察される。これは分枝血管にも応用できる。3) 大動脈拡大。
【結語】心エコー時の大動脈スクリーニング(4Sアプローチ)をルチーンに施行し、ADを疑う所見があればCTにて確定診断を行うことが肝要である。
吉岡 邦浩 先生
従来のマルチスライスCTのスペックはスライス厚0.5mm、512x512マトリックス(ボクセルサイズ:0.5 x 0.5x 0.5mm)であったが、超高精細CTではスライス厚0.25mm、1024 x 1024マトリックス(ボクセルサイズ:0.25 x 0.25 x 0.25mm)となった。尚、本装置はメーカーとの共同研究契約に基づき、期間限定で使用している非商用機である。
大動脈解離では、小さなエントリーや肋間動脈の引き抜きによる小交通孔、aortic cobweb等の微細な病変が鮮明に描出されていた。また、アダムキュービッツ動脈も従来よりも明瞭であり、特に連続性や側副血行路の描出に優れていた。未だ少数例の経験ではあるが、超高精細CTは大動脈解離の診断に新たな情報を提供できる可能性があると考えられた。
内田 直里 先生
適応は、遠位弓部にエントリー口を有するA型解離以外に、真腔狭小化したdynamic obstruction、70歳以下の若年者De-Bakay I型などあげられる。またcomplicated Bに対するTEVAR不能例、TEVARによる合併症IIIb-R解離に対するbail-outとしても有効と思われる。
慢性解離は、TEVARと同様に術後のaortic remodelingは不良な例があり、症例ごとに手術戦略を計画しなければならない。A型解離術後弓部以下の残存解離は良い適応と考えているが、1年以上経過した慢性解離では、追加手術を視野に入れた戦略が必要である。
オープンステント術後の脊髄障害は、重篤な合併症として認識しなければならない。術後の血圧管理は重要で、また肋間動脈が偽腔血流の場合は偽腔血栓化に伴う遅発性脊髄障害にも注意が必要である。
タイムスケジュール
椎谷 紀彦 先生 浜松医科大学医学部附属病院第一外科
志水 秀行 先生 慶応義塾大学病院心臓血管外科
松田 均 先生 姫路循環器病センター 心臓血管外科
西巻 博 先生 聖マリアンナ医科大学 心臓血管外科
加藤 雅明 先生 森之宮病院 心臓血管外科
[コメンテーター]吉野 秀朗 先生 杏林大学医学部付属病院 循環器内科
圷 宏一 先生 日本医科大学付属病院 心臓血管集中治療科
今井 靖 先生 自治医科大学附属病院循環器内科
大島 晋 先生 川崎幸病院 心臓血管外科 5分発表(15:40〜15:45)
北村 律 先生 北里大学病院 心臓血管外科 5分発表(15:50〜15:55)
輕部 義久 先生 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター
[コメンテーター]加地 修一郎 先生 神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科
西上 和宏 先生 済生会熊本病院 循環器内科
吉岡 邦浩 先生 岩手医科大学 循環器放射線科
内田 直里 先生 あかね会土谷総合病院 心臓血管外科
荻野 均 先生 東京医科大学病院 心臓血管外科
「美味しい横浜中華街の料理をいただきながら、普段の診療における疑問点などを
自由にディスカッションできる質疑応答のコーナーを設ける予定です。」